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いとこ会…其ノ二

以前にどこかでさわりだけ話したかも知れない。
同行者の事ははっきり書かなかったと思うが、いとこ会の旅行だった。
母方のいとこ六人、そのうちの何人かには、ちょっと変わったところがある。
最年長の亜矢ねえは「辿り着かない」。
本当にヤバい心霊スポットとかに、何故か行こうとしても行かれず、道に迷う。
俺と同い年の美保は…ちょっと一言では説明しにくいのだが、
見るタイプだと言っておこう。こいつの話は、また機会があればするかも知れない。
とにかく、ある古い宿場町で宿をとった。

JRの駅から車で随分移動した所が中心部で、特徴のある家並みが続く町だった。
陽も翳り薄暗くなってから、川べりの宿を目指してタクシーで行くと、
風情のある古い建物に、不釣り合いなネオンサインが「●●楼」と掲げられていた。
駅前は新しいビジネスホテルが何軒かあり人も多いのに、辺りは何だか寂れている

一瞬ラブホテルにでも迷い込んだかと思ったが、玄関を入ると普通の旅館。
宿の人は親切で感じがよく、今日は家族連れやカップルで満員だと話してくれた。
建物は川に面した豪華な造りの部分と、道路側の質素な造りの部分の二棟に別れている。
俺達は玄関正面の廊下を左に折れて、質素な建物の方へ通された。

廊下を曲がりすぐに自動販売機のコーナー。その先に階段。向こう側に大浴場の看板。
自販機の前にも階段。廊下を挟んで向こうにも階段が見える。
?????
やけに階段が多い。それに、階段自体が妙に狭い。幅が襖一枚分もないのだ。
こう配もキツく、上りはいいが、下りは気を付けないと転げ落ちそう。
天井も低く、一段下がっている部分では背の高くない俺でも頭を下げないと不安だ

上がり切ると右がトイレ、左と後ろが客室の入口だった。
つまりこの区画には、二部屋予約していた我々しかいないことになる。
最奥の部屋に女性陣、階段側の部屋に俺たちが通された。


部屋は古いが、割と広い。
素っ気無いドアを開けると、正面が細い廊下で左は壁、右は窓で駐車場が見える。
廊下は左へ折れて突き当たり、廊下に面して障子が四枚、向かいは窓で下は庭園だ。
庭園の反対側に玄関を挟んで反対側の棟があった。
廊下の突き当たりには、あり得ない古さのエアコン?がある。
暑くも寒くもない時期で、窓を開ければ用は足りそうだからいいが、動くのだろうか。
障子を開くと十畳の和室で、更に奥に開け放たれた襖が見える。
開いた襖の向こうには四畳半ばかりの次の間まであり、奥に鏡台が置かれていた。
「ボロいけど広いねー!」などと言って荷物を置くと、そこへ美保が様子を覗きに来た。

ノックを聞いてドアに向かうまでが遠い。
元々はドアがなかった場所に無理矢理取り付けたのだろう、そこだけ真新しい。
それはトイレにも言える事で、綺麗なのはいいが、建物に不釣り合いな新しさだった
美保は俺達の部屋を見て回ると、
「あっちと大体同じだね。あっちは窓から町と山が見える。
あと、ここと同じ様な部屋の固まりが幾つかあるみたい。」と言った。
部屋置きのガイドに、避難経路などの書かれた館内図があったので見てみると、
確かにここと同じ、細い階段を上がった所に一~三部屋がある造りが幾つもある。
もう一つの棟…本館は普通の構造のようだが、別館は隔離された小部屋の集合だ

しかも客室は全て二階で、一階には風呂、食堂、娯楽施設等が収まっている。
俺は何だか違和感を覚えた。それと同時に、美保が声をひそめて言った。

「実はお姉ちゃんがさ、あっちの部屋に入るなり“何かここ嫌だな”って言ったんだ。」
お姉ちゃんとは亜矢ねえの事だ。そして、それは珍しい事だった。
おかしなものに遭遇する場所に、行き当たらない「体質」なのだ。
だから彼女の弟といとこ関係とは別にオタ友としてつるんでいる俺も、
彼女がそんな事を言うのを見た事がない。言う必要がない。


「今はサクと明日の相談してるけど、あたし気になっちゃって。」
俺も気になる。だが、美保は別に何もおかしな感じはしなかったと言う。
俺や智宏も0感でこそないが、美保はそれ以上に“見た話”を聞かせてくれるし、
俺はこいつと同じものを同時に見た事があったから、
美保の霊感話は大袈裟な可能性こそあれ、信用出来ると思っている。
その美保が何ともないものを、嫌な感じとは…一体何があるのだろうか。
俺は確認したい様なしたくない様な気持ちになったが、結局部屋には行かなかった

好奇心はあるが、それ以上にチキンなのでどうしようもない。

階下の食堂で夕食をとった後、俺達は各々部屋に戻った。
智宏と郁はTVを肴に一杯やり始め、下戸の俺は最初のうちこそ付き合っていたが
だんだん飽きて来て、先に風呂に入って来ると言って抜け出した。
狭い階段を身を屈めて下り、風呂場に向かう。
「大浴場」などと書いてあるが、家庭風呂を拡大コピーしたみたいな貧相な風呂だ。
俺はステンレスの、真新しく巨大なバスタブにげんなりして、早々に上がった。

脱衣場を出ると、廊下は照明が落とされて薄暗くなっていた。
そう言えば十時で消灯すると言われた気がする。
左手に自動販売機コーナーの明かりが見えていて、人の気配がした。
俺も何か買って部屋に戻ろうかとぼんやりそちらを眺めていたら、見知った顔が覗いた。
「あれ?ナオ?」
美保だった。近くまで行くと、奥で一番下の従妹・桜がジュースを選んでいる。
「二人だけ?亜矢ねえは?」
俺は胸騒ぎがした。部屋が嫌だと言った亜矢ねえが、一人で部屋に残っているのか。
美保の返事を待たずに、俺は階段を小走りに上がった。
奥の部屋へ行き、ドアをノックする。


「亜矢ちゃん?亜矢ねえ?いる!?」
すると扉の向こうで、ぺたぺたぺた…と癖のある足音がした。
俺の名前を呼ぶ声がして、ドアが開く。亜矢ねえは怪訝な顔でこちらを見た。
騒ぎを聞き付けてやって来た智宏達と共に部屋に入り、
訊ねてみれば本人はまるで暢気な様子で、
見たいTV番組の途中だったから買い物に行かなかった、と話した。
話している間も、そちらに気を取られてくすくす笑っていた位だ。
何だったんだ?心配して損した。てか、この人の霊感はあてにならないな…と思った。
そこへ美保と桜が帰って来た。
美保は厭な表情をしていた。俺がどうした?と言いかけると…
「見ちゃった。」とだけ答えた。

翌日昼間によく聞いてみると、俺が上がって行った後に廊下の角に出た美保は、
何の気なしに本館の方を見たらしい。
目の前は玄関ホールで、そこの照明も薄暗くなっていた。
向こうに真っ暗な廊下と大階段が見えていて、
館内図で見ると下は宴会場、上は客室だった筈だ。
玄関の正面、フロントに当たる帳場の横から奥には、
俺達が泊まっているのと同じ構造の、階段上の部屋がある廊下が続いている。
ここも真っ暗で、玄関からの明かりと非常灯で何となく奥行が分かる程度だった。
その暗がりをすうっと音もなく、人影が近付いて来るのが見えたと言う。
奥からやって来て、美保がいる角を逆に折れ、本館の暗闇に吸い込まれて行く。


足音がしない。
気持ち悪い…と思ったら。
また同じ様にすう…っと人影が通った。
同じルート。廊下の奥から現れて、本館の廊下に消える。
桜を引っぱって部屋に戻るまでに、三度それが通ったと言う。
「着物で日本髪の女の人。三回とも同じ人だと思う。
目が合うとヤバい気がしてはっきりとは見なかったんだけど、顔が…」
言いながら、美保は顔の左側を押さえた。
「すぐ横を通る時、向こう側が崩れてるみたいに見えたんだ。何か凄いゾ-ッとして
兎に角サクが怖がらない様にって、平気な顔して帰ったんだよ。」
結局、亜矢ねえはそこに行かずに済んでいたのだ。

その後、美保にもその周辺にも何か起こった訳ではないので、
廊下を回り続けていた女性は、ずっと同じ場所にいるモノなのかも知れない。

余談だが、その年だったか翌年だったかに稲川淳二の怪談ライブに行ったら、
舞台セットが遊廓を模した物だった。
それは何だか俺達が泊まった部屋に似ていて、今更ながら違和感の正体に気が付いた。
確証がある訳ではないが、あれはもしかしたら、その昔遊女がいた施設ではないのか。
街道の要所で大きな宿場町だったが、鉄道が引かれた際、
あるいは修繕した際に、駅が宿場から大きくずれてしまった町。
時代の流れで、今は普通の旅館に姿を変えている所だってあるだろう。
あの旅館がそうなのかどうかは確認出来ないが、そうだとしたら、納得が行く。

多分美保が見た女性は、ずっとそこで働いているのだ。
今日、今もいるのか、それは分からないけれど。


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